ラダックよりも壮大な景色が広がり、
地獄の山道を通らなければ辿り着けないという秘境がヒマラヤ山中にあるらしい。
当初は訪れる予定がなかったスピティ谷。
マナリからスピティ谷の中心の町カザまでのバスが毎日運行されているので行ってみることにした。
レーからマナリに着いて早々、
バンコクで虫歯を治してもらったはずの歯が痛み出し、
ヴァシシュトの宿で紹介してもらった歯医者通い。
詰めものの中で感染が進んでおり根管治療が必要になったり、
治療中に歯が欠けてしまったりと4回も街中の小さなデンタルクリニックを往復する羽目になり、
まさか12日間も足止めを食らっているマナリ。
今後の旅程としてデリーからネパールを経由して東インドのシッキムを訪れるはずだったが、
ネパールでのんびりしている余裕がなくなってしまった。
ネパール旅行を泣く泣く断念する代わりに、
ヴァシシュトの宿で教えてもらったスピティ谷を治療の待ち日数を利用して訪れる。
次の歯医者予約日まで3日間なのでスピティ谷の奥地まで踏み込めないけれども、
中心の町カザなら往復できそう。
マナリ〜カザで12時間かかるという超ハードな悪路をローカルバスに揺られ、
ラダックを超えるかもしれない絶景を求めてみる。
カザへの行き方は二つ。
ローカルバスかシェアタクシー。
シェアタクシーは移動時間が短いものの1000ルピーかかるので論外。
早朝4時発と出発時刻に問題があるローカルバスを選ぶ。
前日のマナリのバススタンドでカザ行きのチケット購入。
窓側の席を選んで360ルピー(600円)。
オンシーズンだと西欧人、若いインド人のバックパッカーで人気ルートなので、
予約なしで直接バスに乗り込んだ場合、席に座れない可能性が大きい。
出発前夜21時に消灯したもののさすがに眠れない。
どこからともなく太鼓の音が聞こえてくるヴァシシュトの夜。
深夜前から宿のスタッフたちの酒盛りが始まったようで、
笑い声が気になってますます睡魔から遠くなる。
ようやくスタッフの酒盛りが終わったかと思ったら雷鳴と豪雨。
結局、一睡もできずに気がつくと午前2時半だった。
二日後にまた戻ってくるTajゲストハウスにバックパックを預け、
リュックと軽装で午前3時に出発。
豪雨がおさまっても傘なしで歩けないほど。
ヴァシシュトからマナリのバススタンドまで30分以上。
さらに深夜で真っ暗でスマホの懐中電灯で道を照らしながらゆっくりと歩き、
少なからず靴の中が濡れてくるのに苛立ちながらマナリへ下っていく。
途中、吠えてくる犬や羊の群れにびびりつつバススタンドに到着。
深夜なのに野宿している人がいたり、軽食の露店が開いているのがインドらしい。
4時が近づくにつれちらほらと西欧人バックパッカーが増えてくる。
それ以上にインド人のバックパッカーが多い。
6月はインドの夏休みシーズンであり、避暑地のヒマラヤ山脈は大人気でどこも激混み。
マナリは毎日下界からやってくるインド人観光客で汚染されている。
出発予定の4時になってもバスは現れず、同じくカザに向かう西欧人の連中と気長に待つ。
大小のグループを合わせて20人くらいのインド人バックパッカーもスピティ谷に向かうようで、
事前チケット予約をしていない若者も多く、昨日チケットを買って席確保しておいて良かったと実感した。
午前5時前にようやく現れたクル始発のカザ行きのバスの8割の座席はすでに埋まっており、
チケット予約していない連中は通路の立ち席。
ローカルバスを諦めてシェアタクシーを探しにいくインド人バックパッカーばかりだった。
定員オーバーのバスは5時過ぎに出発。
スピティ谷の風景を楽しむ前にキーロンからマナリに来る際も越えた4000mのロータン峠に向かう。
マナリ宿泊のインド人観光客が雪を見るために訪れるロータン峠だけあって朝6時前から大渋滞の山道。
全然進まないバスで徹夜明けの疲れを癒すべく眠るしかない。
多くの一般車、シェアタクシーが足止めを食らっているロータン峠前のチェックポイント脇をバスがノーチェックで過ぎれば道がすく。
2500mから4000mに一気にジグザグ道を登っていく。
深夜の豪雨により山から流れ落ちる雪解け水はあちこちで滝となっている。
マナリに来る時も見た緑溢れる渓谷に睡魔も一時的に消える。
ラダックと違い、なかなか青空が出ないのが悔やまれる。
ロータン峠の頂上の登りつめ、
インド人観光客でごった返すカフェが集まる界隈を過ぎてからバスストップ。
ロータン峠からの景色を眺めるべく乗客が次々に降りだす。
バスに乗り込み、ジグザグ道をひたすら下っていく。
最後まで下るとキーロン行きの道になるようで、
途中でUターンし、車一台しか通れない細いガタガタ道に進入する。
崖っぷちの細い道でも対向車は来るもので、
なんとか二台が通れるスペースを見つけて車体と車体がすれすれぶつかるところでやり過ごしていく。
場合によってかなりバックしないと通過スペースがない時もある。
確かに舗装された道が多いラダックに比べると悪路のスピティ谷への崖の道。
ドライバーがハンドル操作を誤れば一気にあの世行きの地獄の道が続く。
道の悪さに反比例するように雄大な渓谷の景色が広がっている。
滝と化した雪解け水の勢いがすごい。
と思っていたら立ち往生。
なかなか前のトラックが動き出す気配がなく、
他の乗客同様、バスを降りて何が起こっているのか見に行く。
雪解け水がエンジェルフォールズのように山から流れ落ち、
滝を挟んで進行方向の車との対向車の列が止まっている。
水量を増した滝が道を遮断しているようだ。
モーターバイクは何人かで押して冠水している道を進み、
アクセルを踏んで突入したはいいものの、水と岩だらけの道にはまって動けなくなった車はシャベルカーで引率されている。
膝上まで水に浸かりながら車にロープをつけたりしている作業員が素晴らしい。
ゆっくりとだがエンジェルフォールズの氾濫を通過していく車。
ジープやトラックはガタガタ揺れながらも一気にクリアして脚光を浴びる。
ローカルバスの番が近づく。
念のため多くの乗客は降りている。
靴を脱いで裸足で冠水した道を歩いていく人が多い中、
自分ら数人はひとつ前のトラックの荷台に乗り込む。
タイヤが大きなトラックなら大丈夫だろう。
大きく揺れながらも見事に通過。
同じくトラックの荷台に乗っている西欧人、インド人バックパッカーから拍手喝采がわく。
とりあえず濡れずに済んだ。
そしてバスがやってくる。
ボロいバスだが頑丈なインドのバスは躊躇なしに突っ込んで瞬く間に通過した。
なんとかトラブルを回避したけれどもすでに正午近く。
スピティ谷に入ると、灰色の空のもと雪山が続く。
氷河でえぐられたような渓谷に見入ってしまう。
小高い山から流れ落ちるいくつもの滝。
断崖絶壁の山道は相変わらず細く、慎重に対向車をかわしていく。
車一台用の道を羊とヤギの群れが通行止めする場合もある。
クラクションを鳴らしても退かない羊と山羊たちはようやく崖を登り始める。
バスが進むにつれて群れが山肌に移動していき、
モーゼが海を切り開くように道が現れる。
午後2時頃にようやくランチ休憩。
午前5時からチャイストップもなかったので多くの乗客が拍手。
雄大な山々に囲まれた休憩所で豆カレーとライスを食べた。
マナリを経ってからすでに7時間経ったのにまだ3分の1も進んでいない。
雨が舞う中、スピティ谷を進んでいく。
昼食で温まると睡魔がやってくる。
夢うつつを彷徨いながらスピティ谷の風景に目をやる。
深い緑に包まれていたマナリから遠く、
ラダック同様荒涼とした岩山が広がっている。
2時間以上渓谷に沿った山道を走ってからバスはジグザグ道に入っていく。
ロータン峠より標高が高い4500mのクンズム峠へ。
先の雨がやんだのに急激に寒くなる。
レーからマナリに降り、
もう経験しないと思っていた標高4500mの世界に再び戻ってきた。
バスを降りると空気が薄い。
地面に雪がなくても雲が地表すれすれを流れている。
マナリで見かけなかったゴンパがあるチベット圏でもあるスピティ谷。
カラフルなタルチョーも冷たい風になびいている。
すでに日の入り前のカザ到着を諦めた頃、パスポートチェックがある。
人里離れた秘境にふさわしい渓谷の村を一望する。
荒涼とした絶景を眺めながらのローカルバスの旅はひたすら続き、
暗くなってからも断崖絶壁に沿った山道を進んでいく。
乗客は皆ヘトヘトだが、それ以上に悪路を運転し続けるドライバーがすごい。
結局、カザに到着したのが午後9時。
たった200kmなのにカザから16時間もかかる悪路移動となった。
再び午前4時発のローカルバスでマナリに戻るまでカザに2泊する。
秘境といえどもインド人のバイカーが多く宿代が高い。
バスステーションに近いZambalaゲストハウスでWiFiなし、お湯なし、清潔といえない部屋で500ルピーもした。
早朝4時発カザ行きのバス移動16時間の疲れを癒し、
翌日の午前4時発マナリ行きに備えて寝るだけの宿。
小さなカザの町は2時間歩けば十分。
久しぶりにチベット圏の町をぶらついてみる。
世界の終わりのような荒涼とした町であり、雪をかぶった山々が壁のごとく迫っている。
カラフルなゴンパがあり、これが唯一の観光名所かもしれない。
氷河から流れ出す川に向かってみる。
黄色い高山植物が鮮か。
仏塔の先に流れる川は水量が少ない。
マナリ周辺の濁流や滝と化した雪解け水と雲泥の差である。
まさに秘境感が漂うスピティ谷を眺めてわずか1日のカザ滞在が終わる。
ラダックを超えるかどうかは別にして、
片道16時間も地獄の山道に揺られて往復する価値があるスピティ谷と言えそうだ。
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