ゴビ砂漠ツアーは3、4日の短い日程ではなく、一週間に及ぶものであり、
観光バスで名所を廻るツアーと異なり、道なき草原をバンで進み、
シャワーやトイレがない遊牧民家族のゲルに寝泊まりするアドベンチャーに近いものらしい。
せっかくモンゴルに来たのだから遊牧民家族のゲルに泊まってみたい。
北京から2泊3日かけてたどり着いたウランバートルではホンゴル•ゲストハウスに滞在。
家庭的なゲストハウスでドミトリー8ドル。静かで居心地いいゲストハウスだった。
ホンゴルゲストハウスにてゴビ砂漠ツアーを申し込むもなかなか人数が集まらず、
6〜7泊のツアーで1日70ドル以上と料金も高かった。
どうしようかと悩んでいたところ、
同じドミトリーでアジアを周遊しているマレーシア人と出会い、
ツアーを申し込むなら西洋人が多く宿泊しているゴールデンゴビ•ゲストハウスが安くて良いと教えてくれた。
別のゲストハウスのツアーを申し込むのは気兼ねしてしまうものの、
実際にゴールデンゴビ•ゲストハウスに立ち寄ってみると、
7泊8日で440ドルのゴビ砂漠ツアーのオファーがあった。
もちろん440ドルでもまだ高いけれども、
1日平均55ドルで3食付き、ゲル滞在なので割高でなさそう。
それよりも不安なのは7泊8日というツアー日程の長さ。
当初は3泊で十分と思っていたのに本格的なアドベンチャーになりそうだ。
ゴビ砂漠ツアー初日。
ホンゴル•ゲストハウスをチェックアウトし、
ツアーを申し込んだゴールデンゴビ•ゲストハウスにバックパックを預かってもらう。
メンバーは天童よしみを思わせるモンゴル人ガイドのナッサ、
英語は喋れないがまじめなドライバーのバットボール、
フランス人女性旅行者2人。
フランス人は高校時代からの友達同士であり、
モンゴルと中央アジアを周遊中のミレンと二週間の休暇を利用してミレンに会いに来たアンナ、ともに26歳。
久しぶりの友達との再会で盛り上がっているミレンとアンナのフランス語の会話に加わる余地はなかなかない。
自己紹介の後、食料や水、寝袋を載せたバンは出発。
しばらくウランバートル市内をぐるぐると廻り、
給油を済ませてゆっくりと広大なウランバートルから離れていく。
ウランバートル郊外も市内と同じく高層アパートの建設ラッシュが進んでいる。
ウランバートルから出ると早くも草原が広がり、
ゲルがぽつぽつと見えてくる。
遊牧民の移動式住居、ゲルはモンゴルのイコンのようだ。
草原で戯れる馬や牛に人間よりも動物の方が圧倒的に多いモンゴルを実感。
初日の午前中からして待望のモンゴル大草原とご対面。
広大な丘陵に無数の羊、ヤギが密集しており、
何もない大草原にゲルだけが唯一の人工物として存在している。
最初のランチタイム。
いったいどんなところで食べるのだろうと思っていると、
バンはアスファルトの道路を外れて草原に突入。
大自然一色の丘陵にて昼食を作ってくれるそうだ。
ウランバートルからそう離れていないため6月上旬でも肌寒い中、
ナッサがコンロで調理してくれるランチを待つ。
なかなか美味しいモンゴル風炒麺を食べる。
遠方の馬の群れを見ながらのランチは贅沢である。
このツアーでは当然8日間インターネットなし。
iPhoneやパソコンの画面ではなく、
果てしなく広がる草原を眺めていると視力も良くなりそうな気がする。
ランチタイム終了後、バンはひたすら南下し、
やがてアスファルトの道路から外れて草原に入っていく。
車のタイヤの跡だけを頼りに目印もない草原を運転するドライバー、バットボール。
モンゴル人の脳にはGPSが蓄積されているので目印のない草原でも迷わないそうだ。
初日のハイライトとしてマッシュルーム岩の密集地帯や自然の中の寺を訪れる。
7泊8日のツアーはゴビ砂漠だけを廻るのではなく、途中の名所にも寄ってくれる。
そもそもメインのゴビ砂漠に到着するのに2日かかるらしい。
まだまだ太陽が高い位置を漂う18時頃に初日の宿に到着。
モンゴル旅行のメインといえる遊牧民のゲルを初めて目の前で見る。
紛れもない本物のゲルである。
バンを降りて早々、なつっこい遊牧犬が近づいてきた。
まずは遊牧民家族のゲルに通され、
羊のミルクで作ったヨーグルトを頂く。
遊牧民の小さな男の子と女の子が恥ずかしがりながらもちらちらと見てくる。
2家族のゲルとゲスト用のゲル、合計3つのゲルが並んでいる。
大人3人が横になれるのがやっとのゲルなので、
ナッサ、バットボール、ミレン、アンナを含めて5人が家族と一緒に寝泊まりできるはずもない。
想像していた遊牧民家族と一緒に一つ屋根の下、ゲルで過ごすというのは難しそう。
ナッサが遊牧民家族のゲルで夕食を作ってくれている間、
フランス人女性2人と泊まるゲスト用ゲルに荷物を運ぶ。
普段は子供達が使っているのか、
ぬいぐるみが置かれたタンスがあったり、可愛らしい内装である。
モンゴル人が信じる仏教はチベット仏教と同じそうで、チベット風の額も飾られている。
生まれて初めてのゲル周辺も探索。
水道や電気は当然なく、それでもテレビはある。
ソーラーパネルや衛星テレビアンテナを設置していたりとモダンな部分もある。
トイレはゲルから離れたところにある掘建て小屋
…ではなく、その隣の板で囲まれた穴だった。
もう一つ新たにゲルを設置するというので、家族の組み立て作業を見せてもらう。
ゲル一式セットの中から支柱、囲い柵などを次々と組み立てていき、
1時間ちょっとで白いビニールを天井に被せるまでに至った。
職人技を見ているようだった。
ナッサが作ってくれた羊肉入りのスープ麺の夕食を終え、日の入りは22時近くなので草原を歩き廻る。
羊たちの群れはすぐ近くにいるように見え、歩いて近づいてみるとかなり遠い。
モンゴル大草原に距離感覚が狂い始めている。
夕暮れ時の大草原で立ち止まってみる。
羊たちの声、風の音、女の子の泣き声が聞こえるだけで車や電子音は一切ない。
見渡す限り樹木がないからか、鳥のさえずりや虫の音も存在しない世界。
風がやむと耳がキーンとするような極限的な静寂がある。
念願のゲルにも泊まれ、初日から大満足のモンゴル大草原、ゴビ砂漠ツアーになった。
実際に砂丘が現れるのは4日目なのでまだまだ先が長い。
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